蓋から側面まで一面に施されたエンボスの花文様は、職人が銀板を裏側から打ち出して立体的に成形する伝統技法によるもの。可憐な小花、巻き上がるアカンサス葉、リボンを思わせる曲線が絡み合い、ヴィクトリア朝後期に愛されたロマンティックな装飾世界を今に伝えます。
蓋の中央には、楕円形のカルトゥーシュ(銘入れ用の空欄)が控えめに残されています。当時、お嬢様への贈り物として誂えられたジュエリーボックスには、贈り主の手で持ち主のイニシャルが彫り込まれるのが習わしでした。一世紀を経て無垢のまま残されたこの空白は珍しいです。
底を支えるのは、四隅に伸びるカブリオレ・レッグ(猫脚)。優雅な曲線を描くこの脚は、ヴィクトリアン様式を象徴する意匠でありながら、欠けやすく失われやすい部位でもあります。四本すべてが完全な姿で残されていることは、この個体が大切に受け継がれてきた証です。
側面には、英国銀製品の真正性を保証するホールマークが鮮やかに刻まれています。スターリングシルバーを示すライオン・パサント、バーミンガム・アセイオフィスの錨、1915年を表す年代記号「Q」、そして製作者を示すメーカーマーク GNRH「George Nathan & Ridley Hayes」になります。
時代様式としては、エドワーディアンからアール・デコへと移ろう過渡期にありながら、あえてヴィクトリアン・リバイバル(復古調)で誂えられた一品。戦時下の物資統制が始まる前、装飾的な銀細工が作られた最後の豊かな時代の空気を、その手のひらに感じていただけます。
リングや小ぶりなネックレス、思い出の品を収めるトリンケットボックスとして。あるいはドレッサーやコンソールの上に置くだけで、空間に静かな品格をもたらしてくれる存在として。
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